孤独部の日誌

名古屋とサウナとひとり旅

誰かさんによく似た誰かさん

電車に乗っていると、なんとなく過去に会った誰か、に似ている人を見かけることがある。

地下鉄で、座ったその斜向かいの辺りに、女の子が座っていた。自分より少し年下だろうか。

(ところで、自分から年が離れた人は、何十代かを見極めるのも困難だが、なぜか自分と同じ位の年代の人は、なんとなく上か下かわかる。どれ位離れているかまで察しがつく。これは一体何故なんだろう。)

そのひとは、スマホの画面に目を落としていたと思う。なので、マフラーだったかマスクだったか、に顔の下半分をうずめていたので、上半分位までしか見えなかった。
目がくりっとした、心なし頬が上気して薄桃色に見えるひとだった。

どことなく、見憶えのある顔に似てるなぁ、と感じた。
もちろんその人は全く知らない人だ。
ただ、"どことなく似ている"というだけだ。

その感じだけを頼りに、記憶の中の誰かさんを探した。
思い出したのは、あれは高校生だったか中学生だったか、のときに一度もクラスが一緒にならなかった女の子だった。
どっちだったか未だにはっきり思い出せない。高校生だったか、中学生だったか。

とにかくそのひとを憶えているのは、特に訳はない。
ただちょっと可愛くて印象に残っているという、ただそれだけで、おそらくほとんどことばを交わしたことはなかった。
記憶の中の映像では、高校の制服を着ている気がする。しかし、彼女と仲良く話をしている隣の子は、たしか中学のときの子だ。もう自分でもどっちだか検討がつかない。
ただ、話しているときの声も明るく快活で、笑顔が印象的なことだけは鮮明だ。そういえば、ハキハキした子だったように思う。黒髪のショートカットだ。

果たして今あの子は、元気だろうか。
名前も思い出せない。この記憶は、少なくとも十年前のものだから、もし今会ったら印象は全然違うのかもしれない。
ぼくは特に意味もなく、勝手に電車で乗り合わせた女の子に、そんな人物のことを重ね合わせていた。
当然、あの頃はまだ、スマホはなかったのだが。

斜向かいの男がそんなことを考えているとも知らぬまま、女の子は黙々と目線を手元に落としていた。
ぼくのことどころか、斜向かいに誰か座っているということなんか、全く気にも留めていないだろう。

先にぼくが降りたその電車は、きっとまだ黙々と手元を見ているであろう女の子を乗せたまま、走り去っていく。
ぼくは早々にエスカレーターに乗ったので、最後まで見送ることはなかった。