今週のお題「ふつうに良かった映画」
「ふつうによかった」とは、なんだろう。
そもそもふつうとは、なんなのだろうか。
辞書を引いてみる。
普通
[名・形動]特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま。「今回は―以上の出来だ」「―の勤め人」「朝は六時に起きるのが―だ」「目つきが―でない」
[副]たいてい。通常。一般に。「―七月には梅雨が上がる」
……だそうだ。
「ごくありふれた」がよかった映画といえば、ぱっと思い浮かぶものがある。
小津安二郎監督の映画だ。
ぼくがこれまでに観たのは、「東京物語」「お早よう」「晩春」の三本くらいしか、まだない。
のだが、その一貫して「ごくありふれた」が純度高く描かれている感じが、とても好きだ。
50年前後のあたりだろうか。おそらく当時の(当時を知らないので、推測だが)人びとの価値観、生活、時代感というものが、どの作品からも感じ取ることができる。
取り立てて大袈裟な、つまりドラマチックな展開が起こることはない。
例えば見合い話が出て嫁いでゆく娘とその周囲、という風景が、ある種たんたんと切り取られて繋がれてゆく。
きっとこのような風景は、当時ごくありふれたものだったのだろう。
もちろん実際のところは知らないが、そう思わされるだけの説得力が小津映画には感じられる。
時代の空気と、昔も今も根底では変わらないであろう人間の営みを、ごくありふれたような会話や動作のいちいちから感じることができる。美しい。
ふつうによかった、というより、「"ふつう"がよかった」映画である。
ドラマチックなだけが映画じゃない。わたしたちの日常は、決してそんなに日々ドラマチックではない。
それでも、わたしたちの生活は、ドラマに満ちている。日々の、つまりふつうの暮らしが、いいものだと思わされる映画である。
映画の中の時代からはずいぶん遠ざかったのかもしれないけれど、"よかった"と過去形ではなく、きっと今でもこういう人の営みは穏やかで美しいものと現在形で捉えることができるに違いない。
そうでなければほとんど平成生まれのぼくが、こんな古い時代の映画を(失礼)、おもしろいだなんて思えないはずだから。
ああ、愛おしい。今度の休みにでもまた観よう。
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ちょっとこれ、安すぎやしないか。
とうとう買ってしまうことに決めた。
届いたら、酒でもゆっくり呑みながら、ぼんやり眺めたいと思う。
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えんげきユニット「孤独部」
名古屋で活動してます。
写真は、小津安二郎「晩春」などに影響を受けてつくった作品『晩秋』の舞台写真。
これは、ラジカセで何気ない同じ会話を10回繰り返し、そのうちに次第に二人の距離が変わっていくような作品。
昨年に大阪のコンペで上演したとき、やなぎみわさんら審査員の方々に「わたしは好きですよ」という微妙な(?)反応をいただいたのが思い出深い。