誰も起こしてくれない。部屋に一人なのだから当たり前だ。
ひとり暮らし始めたての頃、母親のありがたみを感じた瞬間は、朝とメシと洗濯。朝、叩き起こされるのは気分のいいものではなかったが、そうまでして起こしてくれた母親に感謝せずにはいられない。
あまりにも寝坊が怖くて、当時のぼくは一つの秘策を思いついた。
それは、「床で寝る」。
フローリングに薄いカーペット、その上に横たわって眠るのだ。当然安眠はできない。しかし父譲りの、どこでも寝れるたちのぼくは、五分も経たずに眠りに落ちることができた。
朝方になると流石にからだが冷えるのか、自然と目が覚める。少々強引だけれど、どうしても寝坊が怖いときにはなかなか使える必殺技だ。
(ちなみにこの必殺技は、夏限定だ。布団に横たわるのも暑いこれ位の季節限定の技である。)
最近この秘策は封印していたのだけれど、昨晩久しぶりに決めてしまった。それも意図せず。
気づいたら床で寝ていたのだ。
案の定、朝方5時くらいだったろうか、寒くて目が覚めた。普段はぐっすり寝ていて見ることのない朝の空が広がっていた。(そういえばほんの数ヶ月だけコンビニ夜勤をしたことがあって、そのときの明け方の空気は、妙に憶えている。あれは嫌いではなかったことを、朝の空気の懐かしさと共に思い出した。)
そのあと布団に潜って寝直した。が、昼間にふと鏡を見ると、クマが酷かった。やっぱりこの必殺技はオススメできない。オススメできないが、そんな朝を迎えたことで、もう夏がすぐそこまで来ていることを感じた。この季節のフローリングは優しい。
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家の写真を探したけどなかったので、ひとり芝居『さいごのうた』の舞台写真。写真に写っているカーペットも丸テーブルも、実際にうちで使ってるもの。
そういえば作中でもこれまでときどき、床に寝転がるシーンがあった。(『晩秋』『思い出のマーニーマーニー』など、ワンルームを舞台にした作品で。どちらも上記の家具を舞台セットに使っている)
哲学者レヴィナスが「横たわる」ということについて論じているのを大学の頃読んで、それから"横たわる"ということには実は、特別な思い入れがあります。
すっかり頭から抜け落ちてしまっているから、読み直そう……。まだ家のどこかに転がってるはず。
- 作者: 内田樹
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