孤独部の日誌

名古屋とサウナとひとり旅

「痴漢やめますか、仕事やめますか」

名古屋は神宮前、名鉄のホームを繋ぐ階段に、こんなキャッチコピーが貼られていた。


「痴漢やめますか 仕事やめますか」


ちょっと驚いた。別にやましいことがあるわけではない。しかし、階段の段差に貼られたそれは、上ろうとするわたしたちの目に否が応でも飛び込んでくる。派手な色彩だ。


このコピーを踏み越えながら、考えてしまった。痴漢をやめようか、仕事をやめようかと。繰り返すが、やましいことはしていない。なのに考えてしまった。


なんなんだろう、このコピーは。痴漢やってる前提じゃないか。その上、仕事もしていて辞める気はないときた。


どうするんだ、もし本当の痴漢がわたしみたいに「あっ、どうしよう、どっちやめようかな」と考えてしまったら。


痴漢のことだから、こう考えるかもしれない。「あ、いい機会だし、仕事やめようかな」どうするんだ。「じゃあ、そうだな、これからは痴漢に専念しよう」おいおい。まずいだろ。それは仕事にならんだろ。いつの日か職務質問を受けて彼はこう答える。「仕事?ああ、痴漢です」もはやこれは自白だ。しかし彼には全く恥じるところがない。なぜなら彼は、仕事をやめて痴漢に専念するようになった、いわば痴漢のプロだからだ。彼は自分の仕事に誇りを持つだろう。だから彼は悪びれることもなく警官にこう言うのだ、「はい、わたしが痴漢です」と。ここまでくるとむしろ潔い。彼の表情はきっと、前向きな生きる力に満ちているに違いない。ああ、厄介だ。そんな潔い痴漢がいてたまるか。警官は、かえって彼をどうしたらいいのかわからなくなるに違いない。


仕事をやめようか、痴漢をやめようか。痴漢をしていないわたしたちに向けられても、返答に困る問いだった。