「ノマドランド」を観てきた。
先日のアカデミー賞でも話題になり、偶然Twitterで知った作品。気になったので映画館に足を運んだ。
作品については、こちらの記事が詳しい。
キャンピングカーで生活する主人公・ファーンと、彼女が出会う同じような境遇の"ノマド"(放浪の民)たちの物語。
キャンピングカー生活ときくと、最近流行りのキャンプや車中泊をイメージしてしまうが、彼女らの状況はもうちょっと深刻だ。
ワーキングプア、高齢労働者、ホームレスといった社会問題を含む内容。これらは高齢化社会である日本でも問題になっているが、アメリカでも同じようなことが起きているのがわかる。
こう書くと暗そうだが、登場人物たちは決して暗いわけじゃない。
この作品、驚かされるのがメイン2人の俳優以外は、"実際のノマドの人たち"なのだそうだ。
おそらく、作中のエピソードや言葉には、ノマド当人である彼ら自身のなかから生み出された部分もあるのだろう。というか、もう表情ひとつ、顔のしわひとつひとつから、びしびしとリアリティを感じる。
演技も素人とは思えない、いや、言われないと気づかない自然さである。すごくよかった。主人公の演技も、絶妙な表情ですごくいい。
そんな半ドキュメンタリー的な手法でありながら、作品としての物語もきちんと構築されている。
ドキュメンタリー的になると、全体を物語としてまとめるのがいささか難しくなりがちだけど、この作品では物語軸も細かく構成されている。
繰り返し出会う(登場する)人物たちの時の経過もていねいに描いているのが、物語をうまく機能させている。その編み方も見事だ。
特に、家族やその家が登場するいくつかの場面は、なんとも言えない感情が沸き起こった。
映像も美しい。広大な自然の風景、働く風景、家や車、さまざまな場面が、派手さこそないが物語と相まってじんわり胸にくる。
天候とか、きっとめちゃめちゃ粘って撮影したんだろうな。
観ていると、舞台はアメリカなのにまったく自分と関係ない世界とは思われないリアリティがある。
自分の親のことや、自分自身の人生(とくに老後)について考えさせられた。
偶然ながら、つい昨日に「金持ち父さん貧乏父さん」を読んでたのも効いてる。
この作品は、落としどころが非常にいい按配だった。社会問題に触れていながらも、何らかの立場に深く肩入れせず、適切な距離感で描いていたように思う。だからこそ、観終わった後に「自分ならどうしたい?」というように、自分自身の問題として考えることができているように思う。
内容・手法・雰囲気、どれも自分の好みの作品だった。
自分も、つくるならこういう作品をつくりたい。と思わされる、手本のように見事な作品だった。